教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 この『サローネ・エッチェレンテ』は高砂百貨店が誇る『エクセレント・ラウンジ』のシステムを模している。

 売り場の一角に設けた特別スペースで、利用できるのは一日三組。しかも予約客専用だから、時間を気にせずにゆっくり買い物を楽しめるのだ。

 私はその立ち上げと円滑な運営のため、日本からローマに派遣されている。
 TGAとしてラウンジでも働いていたからだが、趣味で三年間イタリア語を勉強していたことも考慮されたらしい。

 サローネのスタッフは他に二人いて、私は紳士服の担当をしている。

 ここの広さは約二十畳。柔らかな光に浮かび上がる室内は、ラグジュアリーホテルのスイートルームを思わせる。
 インテリアデザイナーが配慮を重ねた空間には、私の意見もかなり反映してもらえた。

 大理石の壁。イタリア製のマホガニーのテーブルとゆったりしたベージュのソファ、優美なラインを描くブロンズのフロアスタンド。チーク材の床を彩るペルシャ絨毯――品があって重厚なインテリアから浮かないよう、服装だけでなく動作や声音にも常に気を配っている。

 とはいえ、おしゃれにうるさいお客様には、それなりの格好でお迎えしないと納得していただけない。
 イタリアでは特にその傾向が強いし、たとえば今日のジャケットも目立ち過ぎることはないが、この場に映える一着だった。

「どうぞお座りくださいませ」

 東野様は促されるまま腰を下ろしたが、ソファはイタリア製で家具売り場でも評判の品だというのに、なんだか居心地悪そうに見えた。
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