教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
帰国を決めたのは、林太郎さんに抱かれた翌朝のことだ。
色とりどりの花が咲き乱れていた、あこがれのフェリチタ庭園、セレナータ(セレナーデ)が流れる中、キャンドルが揺らめいていたリストランテ、中世のお城のようだった壮麗なホテル。
プロポーズされ、林太郎さんと一夜を明かして、あの日の私は確かに世界で一番幸福だと思った。
彼への想いもはっきり確信できた。
それでも、いや、だからこそ別離を選択するしかなかったのだ。それも、あえて何も言わずに。
そうしなければ、彼を困らせてしまうから。
(……林太郎さん)
少しはにかんだ、男らしい笑顔が脳裏をよぎった。
はじめこそとまどうことばかりだったけど、林太郎さんは誠実で優しい人だった。
約束どおりに私を迎えに来てくれたことを、パオラや『イル・スプレンドーレ』の同僚から聞いてもいた。
そんな彼に連絡もせず、いきなり姿を消すなんて、決して許されないことだったのに――。
(ごめんなさい)
林太郎さんはどんなに怒っただろう? 今はどうしているのだろう?
以前のように、スイスで寸暇を惜しんで研究に励んでいるのだろうか?
私はテイラーのバックヤードでお茶の用意をしながら、唇を噛んだ。
「亜美、お茶を頼むよ」
「あっ」
店先から父の声がして、私は少し慌てて、急須にお湯を注いだ。
色とりどりの花が咲き乱れていた、あこがれのフェリチタ庭園、セレナータ(セレナーデ)が流れる中、キャンドルが揺らめいていたリストランテ、中世のお城のようだった壮麗なホテル。
プロポーズされ、林太郎さんと一夜を明かして、あの日の私は確かに世界で一番幸福だと思った。
彼への想いもはっきり確信できた。
それでも、いや、だからこそ別離を選択するしかなかったのだ。それも、あえて何も言わずに。
そうしなければ、彼を困らせてしまうから。
(……林太郎さん)
少しはにかんだ、男らしい笑顔が脳裏をよぎった。
はじめこそとまどうことばかりだったけど、林太郎さんは誠実で優しい人だった。
約束どおりに私を迎えに来てくれたことを、パオラや『イル・スプレンドーレ』の同僚から聞いてもいた。
そんな彼に連絡もせず、いきなり姿を消すなんて、決して許されないことだったのに――。
(ごめんなさい)
林太郎さんはどんなに怒っただろう? 今はどうしているのだろう?
以前のように、スイスで寸暇を惜しんで研究に励んでいるのだろうか?
私はテイラーのバックヤードでお茶の用意をしながら、唇を噛んだ。
「亜美、お茶を頼むよ」
「あっ」
店先から父の声がして、私は少し慌てて、急須にお湯を注いだ。