教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 あの恋は、私たちがローマにいたから成立したのだと思う。

 趣ある永遠の都で、久しぶりに日本人の女性と触れ合い、いろいろ世話を焼いてもらって親密な時間を過ごしたから、林太郎さんの気持ちが動いたのだろう。それだけのことだ。

 一方で、私の恋心は本物だったけれど。

「今日はありがとうございました」
「こちらこそお世話様。またよろしく」

 父が林おじさまを見送っているらしく、店の方から二人が挨拶を交わす声が聞こえてきた。

(私もそろそろ家に帰る支度をしなくちゃ)

 自宅で両親や兄とゆっくり過ごしたからだろう。帰国直後よりは、私の気持ちもだいぶ落ち着いてきた。

 それに仕事が始まれば、胸の疼きも毎日の忙しさに紛れていくだろう。

(大丈夫。きっと……いい思い出にできるから)

 私は自分に言い聞かせながら、茶器を片づけるために店先に向かった。
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