教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「だって林ちゃんの話を整理すると、要は桐島にふられたってことだろう? ここは男らしく、キッパリあきらめろよ」
「あきらめられない!」

 俺の勢いに気圧されたのか、敬ちゃんは無言で眉を寄せた。

「俺を……待っていると、亜美さんは確かに言ってくれたんだ。プロポーズにも頷いてくれた」
「その展開がまず信じられないんだよ。数日しか一緒に過ごしてないだろうが」
「でも、彼女しかいないと思ったんだ」
「まあ、それはともかくスイスからローマに戻ったら、桐島はもう帰国してたわけだろ? 林ちゃんには何も言わず、連絡先も教えずに」
「何か……理由があったんだと思う。だから日本で改めて話をしようと思ったのに、高砂百貨店に来ても彼女はいないし、敬ちゃんは何も教えてくれないし」
「やれやれ。俺ならそんな状況で深追いはしないぞ」

 敬ちゃんはあきれたように肩を竦めながら、「だが」と続けた。

「こんな林ちゃんは初めて見た。いつもなら会話は単語だけで済ませてるくせに、長くしゃべることもあるんだな」

 楽しそうに俺をからかいながらも、その口調は優しかった。

「この前はわざわざローマから電話してきて、あれこれやけに面倒な手配を頼んできたし……林ちゃんに頼みごとをされたのは、あの時が初めてだったな」
「感謝している……本当に」
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