教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 メールで送られてきたゲストカルテによれば、彼の身長は百八十九センチ――お互い立ったままだと、私は頭ひとつくらい上から見下ろされる形になってしまう。

 正直、大きくて無愛想な男性は苦手なので、相手が座ってくれて少しほっとした。

(さてと)

 東野様は一見細身だが、メンズ売場で鍛えられた私には、その体がしなやかな筋肉に包まれているのがはっきり見て取れる。

 何か運動をしているようで、わかりやすいマッチョではないけれど、学者というよりはアスリート寄りの体型だった。

「東野様、何かお飲みものはいかがですか?」

 私はソファに歩み寄って、メニュー表を差し出した。 

 口数が少ないのは、慣れない場所でとまどっているからかもしれない。スイス在中とはいえ、ここはローマだ。言葉も違うし、緊張していてもおかしくない。
 まずは相手にリラックスしてもらおうと思ったのだ。

 同時にそうすることで、私自身の緊張も解したかった。

 どんなに慣れていても、初めてのお客様、特に東野様みたいなタイプには、どうしても硬くなってしまいがちだったからだ。
 自分が小柄だから、背が高くてたくましい男性には萎縮してしまう。

 だが、相手の性格や目的にもよるものの、ここでの接客は長い場合には二時間以上かかることもあった。
 たとえ短くても一時間。その間、私は彼につきっきりで対応しなければならないのだ。
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