身体から始まる契約結婚
と、次の瞬間。
くるりと世界が反転して、私の上に誰かが乗っかっていた。

「あおん、っな」

はぁはぁと息を荒くさせた見知らぬその人は、どこか様子がおかしいようにも見えた。

夜を彷彿させる深い藍色の髪に、シルバーに輝く瞳がまるで銀河みたいだった。

美しい顔立ちに誘われ、私はそっと手を伸ばす。
夜空が欲しいと思った。

名前も知らない彼は私の手首を掴むと、そのまま掌に唇を落とした。

蠱惑的な仕草に私の心臓はきゅっと鳴った。
そのまま、彼の身体が覆い被さり、私たちは流れるように口付けを交わした。

湿っぽい彼の舌が私の唇を割って入ると、口付けは深さを増していく。
くちゅ、ちゅと濡れた音が私の耳を犯す。

ぼんやりとした世界に、劣情が滲んで彼の姿だけ輪郭を帯び始めた。

この人、私と身体の相性良さそう。
直感がそう告げていて、それは大抵の場合真実であったりもする。

彼の指先が私のドレスを紐解いていく。
期待と本能に高まって心臓が痛いくらいだった。

彼の指に私の秘密が暴かれていく。
優しく胸を揉みしだかれて、不可抗力的に甘い吐息が漏れる。

「……っ、あ」

私の声に彼の手がぴくりと反応し、動きが止まる。
それから、まじまじと銀の瞳で私を見つめ、彼は笑った。

「可愛いな、お前」

かぁぁぁあと頬に熱が集まる。
私の熱と彼の熱が混ざり合って、世界が溶けていった。

夢と現実の狭間に二人で堕ちていった。
彼の瞳が白ウサギを彷彿とさせるから、私はアリスになれたみたいだった。

深くて暗い穴に落っこちて、だけど終始彼の熱を感じていられたから、少しも怖くなかったんだ。

彼の人差し指が私の胸の頂点をかすめる。
びりりと背中に快感の予感みたいなものが駆け抜けて、私の腰が浮き上がる。

浮かんだ身体を彼がぎゅっと抱き締めてくれたから、ほぅっと身体全体の力が抜けていった。

彼の手が私の太ももを這う。

「なぁ、そろそろいいか」

低い声で囁いて、彼の歯が私の耳たぶを噛んだ。
甘い痺れが私の思考回路をぐずぐずにさせる。

気付けば、私はこくんと頷いていた。
この時には既に私の秘所は恥ずかしいくらいに密で溢れていた。

一拍すら置くことなく、彼の固く大きなそれが私の身体を貫いた。
衝撃が快楽に変わるのは早かった。

「あ、やっ……」
「可愛い。もっと見せて」

彼が私の太ももを広げて、腰を押し付ける。
私は涙目になりながら首を横に振った。
恥ずかしさで死にそうなくらいだ。

「ごめん、もう我慢出来そうにねぇ」

切羽詰まった声色に私のお腹がきゅうと熱くなる。
彼の身体が激しく動き出して、私たちは深いキスを交わした。

本能のままに求め合って、互いの存在を思う存分確かめ合った。

あえかな吐息が混ざり合う。
彼と私の汗の匂いが混じり合う。

ーーーー貴方は一体誰なの?

何者か知らない貴方なのに、ただただ気持ち良くて、淫らな快楽に堕ちていくのは赤ワインのせいで、極上のスウィートルームのせいで、つまりモンテカルロのせいだった。

体力が尽き果てるまで相手を求めて、それから意識を手放した。
他人の体温を感じながら眠る夜は驚くほど寂しくなかった。
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