落ち切るまでに断ち切って
「いらっしゃいませ」

 私に負けないぐらい長い髪を、サイドでゆるっと編み込みにした女性がお店の入り口にいて、路地に迷い込んできた私に声をかけてきた。

「お客様は今、5分間にとても縛られていらっしゃいますね?」
 唐突にそんなことを言われて、私は驚いてしまう。

「あの、ここ……」

 “あんてぃーくしょっぷ”と書かれていたけれど、あれが平仮名だったのは実はそこも含めて「占いの館」の屋号だったりしたの?

 ふとそんなことを考えた私に、女主人はクスッと笑うと
「外の看板にありましたように、アンティークショップです。……他所様にはないような面白い古物を取り揃えてございます」

 そう言って店の中へと(いざな)った。

 私は彼女の不思議な雰囲気に押されるように店内へ足を踏み入れる。

「申し遅れました。わたくし、ここの店主をしております久遠(くおん)桜子(さくらこ)と申します」

 年齢は三十路に至るか至らないかぐらいだろうか。
 とても綺麗な人だった。

 彼女に名乗られた私は、思わずそれにつられるように「森原です」と名乗ってしまってから、お店で自己紹介はおかしかったと赤面する。

「大丈夫です。ここは物とお客様との(えにし)を結ぶお店ですので、お客様のお名前は結構重要なのです」

 婉然と笑って、「下のお名前もお伺いしても?」と畳み掛けられた。

 そういえば彼女もフルネームを名乗っていたな、と思った私は「森原、美代子です」と半ば誘導されるようにぼんやり答えてしまっていた。
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