落ち切るまでに断ち切って
「森原様、最近5分間にやたらと縛られていませんか?」

 さっき、店外で言われたのと同じ言葉をもう一度繰り返されて、私はドキッとする。

「どうして……そんなこと……」
 分かるんですか?という言葉は寸でで飲み込んだ。

「森原様がいらっしゃる少し前から、“これ”が次は自分の番だからと騒ぎまして」

 言われて目の前に置かれたのは、ペリドットの粉が中に詰まっている様な、綺麗な緑色の砂をたたえた砂時計で。流線型のラインがとても美しかった。

 砂時計というと普通どちらかのフラスコ状のガラス容器を下にする形で置かれていることが多いと思うのに、これは何故か横向きに寝かされていて。
 それが前提であるかのように、フラスコ状の底辺一部に転がらないための平らな凹みが設けられていた。

「砂時計?」
 つぶやいたら「はい。5分計です」と返る。

 5分――。
 ああ、これを売りたいからこの人はあんなことを。
 そう思ったけれど、久遠(くおん)さんは「お代は結構ですので、この子とほんの少しの間一緒に過ごされてみませんか?」と仰って。

「あの、でも……」
 お金を受け取らなければ商売にならないのでは?
 そう思うのに、何故かそれが聞けなくて。
「うちの骨董()たちに選ばれたお客様は特別です。いつもこうではありませんのでお気になさらず――」
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