落ち切るまでに断ち切って
「ある所が分かってるんならいいよ。――で、俺とどうしたいの?」

 柔らかく微笑まれて、私は慌てて言葉を探す。

「ひ、久しぶりにゆっくり話しながらデートがしたいなって思うんだけど、どうかな?」

 面白いアンティークショップを見つけたの。そこに私、ピアスを預けているから……一緒に取りに行ってもらえないかな?

 横倒しにしたままの砂時計を横目に、私は結露に覆われ始めたアイスコーヒーを手元に引き寄せる。
 ハンカチをグラスの底に当てて、水滴が落ちないようにして中身を吸い上げてから、和博を見つめる。

「珍しいね。美代子から俺を誘ってくれるなんて」
 和博が嬉しそうに微笑むのを見て、私は胸がトクン、と高鳴ったのを感じた。

 あと5分はもう存在しない。
 でもあの5分間のお陰で、私は5年間かけても掴めなかった自分の本心に気付けた。
 
「和博、私、貴方と……これからもずっと一緒にいたい」

 消え入りそうな声音で恐る恐るそう告げたら、「俺も」って声が返ってきた。

 今までとは違う、和博との時間が動き出した予感がして、私は砂時計を握りしめた。


   END(2020/07/25-7/31)
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