お嬢様の恋 ~秘書兼護衛係はお嬢様への一途な想いを隠せない~
咲の母が亡くなった時のことを思い出す。
あの時と同じ表情をしている。

すべてに絶望をしている時の表情だ。


「ですが」
玲はせめてもと、抱きしめられない代わりに、咲の父に告げる。
「製薬会社の新薬は承認されて株価は急上昇を見せています。お嬢様が宣言されていた通り、化粧品メーカーも特許を取得し、売り上げも15%ほどすでに上がっています。体調を懸念されるほどの努力の結果ととらえています。」
「だからなんだ」
つめたい声が食堂に響く。

「お嬢様の頑張りを誰よりも長く一緒に仕事をさせていただいたからこそわかるつもりです。そのお嬢様が退かれるのであれば、一緒に退くのも、私にとっては苦ではありません。」
咲が視線で玲に訴える。
それ以上言ったらだめだと。
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