好みの彼に弱みを握られていますっ!
「車を停めた時にも言いましたけど、駐車料金の件なら気にしなくていいですよ?」

 私の呼びかけをそれだと勘違いなさったらしい織田(おりた)課長が、歩きながらこちらを振り返っていらして。

 ――いや、違うんですっ、そうではなくっ!

 言いたい言葉はてんこ盛りなのに、どう話したらいいのか分からなくて時間だけが過ぎてしまう。




「乗って?」

 いつの間にか目の前のエレベーター扉が口を開けていて、織田(おりた)課長に箱の中へ誘導される。

 どうやらエレベーターも顔認証で作動するみたいで、利用階の指定などなしでも、住人が何階に住んでいるのかなど把握しているみたい。

 扉が閉まると同時。操作パネルをいじらなくても勝手に上昇を開始したエレベーターに、私は落ち着かずソワソワして。

 何階まで上がるんだろう?

 緊張のあまり箱内で、織田(おりた)課長から目一杯距離を取って隅っこで固まって階数表示に目を凝らしていたら、「何もそんなに警戒しなくても」とクスッと笑われる。

 いや、しますよっ。

 だって駐車時間っ!
 そんなに長く私を部屋に留めて、一体何を目論んでいらっしゃるのですかっ。

 ふとそんな抗議の言葉が脳裏をよぎったけれど、それを言ったら、逆に〝何かあることを期待している〟みたいに受け取られ兼ねないと口を閉ざす。
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