好みの彼に弱みを握られていますっ!
 どう言う意味ですか?って聞こうとしたら、まるでそれを言わせないみたいに

「ねぇ、〝春凪(はな)〟。僕が作った珈琲、口に合うかどうか分かりませんけど……先程のカフェラテへの罪滅ぼしのつもりで温かいうちに飲み切って頂けたら嬉しいです」

 って話を変えるの。

 しかも、狙ったように天使みたいなふんわり笑顔で、とか。

 ――絶対わざとですよね!?

 そう思いながらも、大好きな顔でそんなことをされたらチョロ子の私はいとも簡単にクラリときてしまう。

 織田(おりた)課長のお母様の葉月さんとお別れしてから、私のことを「貴女」か「キミ」でしか呼び掛けていらっしゃらなかったくせに、ここへ来ていきなり甘えるように「春凪(はな)」と呼んでくるところも何だかズルイです。

 課長のなかで、「柴田(しばた)さん」な私はどこへ行ってしまったのでしょう?


 葉月さんもいらしゃらないのにいつまでも恋人ごっこを続けなくても良さそうなのに、と思いながらも何となくそれを言わせない雰囲気が織田課長にあって。

 まぁ、週明けからいつも通りに接してくださったらいいやって思っちゃう辺り、私も大概流されやすいんだろうな。
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