好みの彼に弱みを握られていますっ!
「毒とはまた随分な言われようですね。春凪(はな)の気持ちが落ち着くようにと、大さじにほんの1さじブランデーを入れただけなのに」

 何でそこでそんなシュン……とした悲しそうな顔をなさるのですか。
 まるで織田(おりた)課長を責めた私が悪いみたいじゃないですかっ。

 それに、ほんの1匙とおっしゃいましたけど、このサイズのカップに大匙1杯はかなりの分量です!


「お、お気遣いは有難いですけど……やっぱり……そのっ、ひ、ひとことぐらいは相談していただきたかったというか何と言うか……」

 ゴニョゴニョ……。

 あーん、私、ダメな子だ。

 織田課長のお顔が大好きすぎて、日頃会社では決して見せられたことのない、悪戯をとがめられた子供のような切ない表情をして見つめられたら、キュン、と胸がうずいちゃって。

 もっと言及したいはずなのに歯切れの悪い物言いになってしまう。

 しかも、「あ……。それはその通りでしたね。勝手に申し訳ありません」とかやたら殊勝に頭を下げられたら、それ以上言えなくなるじゃない。

「も、良いです。……気になさらないでください」

 最悪、タクシーで帰ることも考えたけれど、お財布の中身を考えて二の足を踏んで、誰のせいなのかを考えてハッとする。
< 114 / 571 >

この作品をシェア

pagetop