好みの彼に弱みを握られていますっ!
「あの、もしかして織田(おりた)課長がお飲みになっているのにも……」

 責任をとって織田課長に送っていただくと言う手もあるじゃないって思った私だったけれど、もしやと思って恐る恐る尋ねてみたら、

「もちろん、こちらのにもたっぷり入ってますよ? 下手したら春凪(はな)のより多いくらい。僕のは嗅いでもいないのに分かるとかさすがですね。バーで良い飲みっぷりだっただけのことはあります」

 とか、わざとらしく目の前で飲んでみせながら言うの。

 もう、それ! 絶対「送る気なんてないですよ?」の意思表示ですよね?

 さっき、ロビーでコンシェルジュ(管理人?)のお姉さんに、私の車を一泊させると話していた段階で、既にそういうのを目論んでいた気がするんですけど……。


「とりあえずご覧の通り部屋だけは余っていますので、今夜は泊まるといいですよ」

 ニコッと微笑まれて、私はグッと言葉に詰まった。

「た、タクシーを呼んでいただければっ」

 それでもなんとか絞り出すようにそう言ったら、
「でもそれでしたらまた車を取りにここまで戻ってこないといけなくなりますよ? タクシー代が無駄にかかりませんか?」
 とか。

 この人、もしかして私の財布の中身や通帳の残高を把握してらっしゃるわけじゃないです……よ、ね?
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