好みの彼に弱みを握られていますっ!
「車も〝たまたま〟一泊にしてありますし、泊まりの方が絶対いいと思います。――ね?」

 ついでのように続けられて、全て計算ずくだったくせに!と心の中で悪態をついたけれど、まるでそんなことは思ってもいませんでした、と言わんばかりの爽やかな笑顔で見つめ返されて、私の方が邪推をしているような錯覚におちいりそうになる。


「あ、あの……織田(おりた)課長。一応確認なんですけど。計画的犯行とかじゃないです、よね?」

 無駄とは知りながら聞いてみたら、クスッと笑われて。

 その笑みは肯定ですか、否定ですか?

「まぁ、もうどのみち飲んでしまったわけですし、飲みきっちゃいましょう?」

 「はい」とも「いいえ」とも言わないで、私のカップを見つめてそう促すと、織田課長がふと思いついたように付け加えていらっしゃる。

「ねぇ春凪(はな)。今はお互いプライベートなわけですし、僕のことは宗親(むねちか)って呼んでください。家でまで役職で呼ばれたら何だか落ち着きませんから」

 そんなことしたら、私の方が落ち着かなくなるのですが!という結論には達しないところがこの人らしいなと思ってしまった。
 いや、気付いていてもあえてスルーされているだけな気がします。

 だってこの人、腹黒ドS男だもん。
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