好みの彼に弱みを握られていますっ!
春凪(はな)、本題からそれてますよ?」

 しかし、さすがそんな私を日々上手にアゴで使っていらっしゃるだけのことはある。

 すぐ敵前逃亡しようとする負け犬の首根っこを捕まえるみたいに、問題に向き合うよう仕向けられる。


「だって……考えたってどうしようもないじゃないですか。私、就職が決まった時、自分へのご褒美だー!って無計画に車買って貯金使い果たしちゃいましたし……今から好条件のアパートが見つけられたとして、敷金礼金払える気がしないんですものっ」

 ギュッとビールのグラスを握りしめて、

「小さい頃からそうでしたけど……結局――親の言いなりになって田舎に連れ戻されるしかないんです、きっと」

 半ばヤケになってそう言ったら、鼻の奥がツンとして視界がぼんやり滲んだ。


「――仕事はどうするつもりなんですか? うちの会社、ご実家から通える距離なんですか?」

 探るような目をして聞かれて、「まさかっ!」と首をブンブン振る。


 この町からうちの実家まで、新幹線で2時間以上かかる。
 降りた駅から会社までだって、在来線に乗り換えて30分ちょっと乗り継いで、たどり着いた先の最寄駅から徒歩で更に20分。

 おまけにあちら――実家の立地から考えても、新幹線の駅まで車で30分はかかるの。

 軽く見積もっても、通勤にトータルで3時間以上コース。

 
 さすがにその距離を、毎日通ってこられるわけがない。
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