好みの彼に弱みを握られていますっ!
「私を罠にはめようとする男性(ひと)なんて宗親(むねちか)さんぐらいしか思い浮かびません。だから貴方さえ何もしていらっしゃらなければご心配には及びません!」

 私は目一杯の皮肉を込めて冷たく言い放った――つもりだった。

 なのに。


「それはつまり、今現在貴女に言い寄っている男は僕だけだという告白ですね?」

 って嬉しそうに微笑んでくるとか……本当いい性格していらっしゃいますね?


「では、下手なライバルが出てこないうちに、早速あちらでチャチャッと書類を作成してしまいましょう」

 スッと手を引かれてソファーから立たされた私は、宗親さんに導かれるまま訳もわからず彼の後に続く。

 そうして紳士然とした態度で椅子を引かれてアイランドキッチン前に置かれたスツールに大人しく腰掛けてから、「ん?」と思った。


「これ、僕の方は全部埋めてありますので、春凪(はな)の方を埋めたら完成です。――あ、証人欄はまだですけど、それは〝すぐに何とでもなります〟からお気になさらず」


 何でもないことみたいに続けられて、握り心地の良い高級そうな黒い軸のペンを渡されて。
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