好みの彼に弱みを握られていますっ!
「やはり僕の〝妻〟はキミ以外には考えられません。――今ので、僕はますます春凪(はな)のことを手に入れたくなりました」

 言われて、ソファーにグッと押さえ付けられて――。

「……んっ!」

 妻じゃなくて妻役ですよと言おうとしたのに、気が付いたら宗親(むねちか)さんに、口付けられていて言えなかった。


 何が起こったのか分からなくてあわあわしている間に彼がスッと離れてくれて、私はソファーにひとり呆然と寝そべったまま。


「早く起き上がらないと〝続き〟をしちゃいますよ?」

 くすくす笑われて、私は慌てて身を起こす。


「ななななっ、何するんですかっ」

 唇を軽く拭いながら睨みつけたら、「その反応、結構傷付くんですけど」と苦笑されて。


「わっ、私っ、恋人以外とはこんなことしない主義なんです!」

 傷付くも何も、いきなり唇を奪われた私の身にもなってください。

 涙目で宗親さんを睨んだら、「でしたら何の問題もないんじゃないですか?」とか。

 えっと……この人、もしかして宇宙人か何かですか?

 言葉が通じなさすぎて口をパクパクさせる私に、「だって僕と春凪は婚約者でしょう?」って……。〝役〟を付け忘れたさっきと言い、今と言い、「〝偽装の〟が抜けてます!」と言いたくなったのも仕方ないよね?


「世の中にはね、嘘から出たまことという言葉もあるんですよ、春凪」

 意味深に言われて、「どういう……」って言い募ろうとしたら、「さて、じゃあコンビニに行きましょうか」と話をすげ替えられた。
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