好みの彼に弱みを握られていますっ!
「ねぇ春凪(はな)。何でマスク?」

 私の顔を見るなりクスッと笑って、

「春凪は元々化粧っ気がそんなにある方じゃないでしょう? むしろ僕としてはノーメイクの方が好もしく思えるくらいなんですけど」

 言われて、スッとマスクを取り払われた私は、慌ててそれを取り戻そうと手を伸ばした。

 なのに意地悪く高らかと宗親さんの頭上に掲げられて、全然届かないの。
 
「やっ、ダメですっ!」

 いくらスッピンの方がいいと言われても、信じられっこない。

 宗親さんの前でマスク目掛けてピョンピョン飛び跳ねたら、もう一方の手が伸びて来て腕の中に閉じ込められてしまう。

「ひゃっ!」

 私が悲鳴をあげるのなんて御構い無し。

「さぁ、寝ますよ」

 そのままクルリと身体の向きを変えられて、電車ごっこさながらに後ろから肩をぐいぐい押されて寝室に押し込まれた私は、にわかに慌てて宗親さんを振り返った。

「わ、私っ、リビングでっ」

 半べそになりながら言ったら、「先程もお話ししたでしょう? 今夜は僕、春凪が一緒でも眠れるか試してみないといけないので」とにこやかに却下された。
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