好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

 顔を覆って「あーん」と小さくベソをかいたところで、
「――聞いてますか? 柴田(しばた)さん」
 と、急に社長から名指しで声を掛けられた。

 私はビクッとして顔から手を離すと、慌てて背筋を伸ばす。

 し、しまった。
 私、まだ社長室にいたんだった!

 壇上から降りて気が抜けたせいか、はたまた緊張状態が長く続いた反動か、いつの間にか連想ゲームのようによそ事を考えてしまっていた。


「早く学生気分から抜けてもらわないと困りますよ?」

 苦笑混じりに社長からちくりと釘を刺されて、私は「申し訳ありません」と項垂(うなだ)れる。


 もぉ、初日から最悪……。


「で、聞いてなかったみたいだからもう1度言うけれど、柴田さんは3階の管工事課の総務部ね。そこの課長に話は通してあるから、あとはその人の指示に従って?」

 こんな腑抜けた新入社員にもチャンスを与えてくれる。
 私、やっぱりアットホームな会社を選んでよかった!って思った。
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