好みの彼に弱みを握られていますっ!
「ごめんね、キミを汚してしまいましたね。――熱かったですか?」

 言われて、混乱した頭のままコクコクとうなずいたら、「素直な子は大好きです」って頬に口付けを落とされる。


宗親(むねちか)……さん、わた、し……すごく()……」


 お腹から胸、鎖骨のあたりまでを濡らす宗親さんの体液をぼんやりと見下ろして……。

 まるで、宗親さんに「春凪(はな)は自分のものだ」ってマーキングされたみたいに思えたことを、心の底から「嬉しい」と心動かされてしまった。

 思わず思ったままにそう告げそうになって、慌てて口をつぐむ。

 ダメだ。偽装の夫婦になろうかという相手に対して、こんな気持ち――。
 バレたら絶対面倒に思われてしまう。


 そう思った私は、

「う、う、う……海! 海に行きたいですっ!」

 誤魔化すみたいに「う」で始まる言葉を適当に言って、宗親さんをキョトンとさせてしまう。

 そりゃそうだよね。
 私も「支離滅裂すぎるでしょ!」って思いながら言ったもん。


春凪(はな)は本当、何を考えているか予測不能ですね。こう言うと変に思われるかもしれませんが、僕は案外キミのそう言うところが楽しくて〝嫌いじゃない〟みたいです」

 クスッと笑われて、私は胸の奥にチクリとした痛みを感じながらも、「私のこと、変な子みたいに言わないでください」って眉根を寄せた。

 「嫌いじゃない」はきっと、「好きでもない」と同義なんですよね、宗親さん。

 そんな風に思いながら。
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