好みの彼に弱みを握られていますっ!
 実際、きっかけさえあれば相手のふところに入るのは案外容易なはずなんだ。

 そもそも僕はそう言うのには長けている方だし、どうにかしてあの子の印象に残りさえすれば、あとはジワジワと外堀を埋めていくことはそれほど難しいことじゃない。

 問題は、どのタイミングでその〝きっかけ〟を作るか、だ。


 そこだけは慎重に見極めないと――。


***


「今更言うまでもなく分かってると思いますけど……明智(あけち)のことだって大学で一緒のクラスになるまでは、お互い知り合いじゃなかったですよね?」

 今でこそこんな風に言いたい放題言い合える仲だけれど、元を正せば見知らぬ者同士。


 薄く笑みを浮かべながら言えば、「まぁそれはそうなんだけどさぁ」と煮え切らない返事。


「あの子。……お前がどれだけ知ってるかは分かんねぇけど……結構うちの店、ひいきにしてくれてんのよ。だからさ、変なことが起こったりして、来てくれなくなったりしたら俺だって悲しいんだわ。――そこら辺、どう考えてんのよ?」

 溜め息まじりに言われて、「だからこれ、迷惑料も兼ねて織田(おりた)のおごりな?」と、僕が飲んでいるのと同じもの(ウイスキーのロック)を自分にも作り始めた明智を無言で眺める。
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