好みの彼に弱みを握られていますっ!
 それに、きっと彼女はここからそう遠くない範囲に住んでいる。

 タクシーなんかを拾って来店するのを見掛けたことがないし、当たり前だけど飲酒運転をするような子にも思えない。

 徒歩圏内に住んでいる気安さから、ここの常連になっていると考えるのが妥当な筋だろう。


 実際、この辺りは近くに大きな大学があって、そこの学生があちこちに住んでいるような地域だ。

 僕が目を付けた子も、どうやらそこの学生みたいだし。


 何かをきっかけにあの子の家でも分かれば、偶然を装って「こんにちは」なんて言うのも出来るんだが。

 そんなことを思いながら、まぁそう都合よく物事が運ぶこともないか、と思い直して。


 とりあえず『Misoka(ミソカ)』での接点を保ち続けられるようにしておくのが大事だ。

 そう思った僕は、学生の身分の彼女がここへ足繁く通い続けることが出来るよう、〝料金面でのお膳立て〟を明智に頼んで随分前に手配済みだ。

 学生というのは〝学割〟と言えば、ある程度裏から金額に関して都合よくアレコレ手を回しても不自然にならないのとか、本当に有り難い。


「問題はどう声を掛けるか、なんですが」

 あの子のことはこの店で幾度となく見掛けているけれど、ひとりで来ているのは見たことがない。

 明智(あけち)が言う彼氏連れの時もさることながら、それ以外でもショートカットのお姉さん気質な友人と飲んでいる風で。

 どこかでひとりになってくれたら話しかけやすいけれど、さすがに連れがいるとなるとタイミングが計りづらい。

 こちらも2人連れとかならともかく……1対2では()が悪いんですよね。

 いざとなったら明智を巻き込むのもありだろうか。

 一瞬そんなことを思ってしまってから、でも場所を提供してもらう手前、出来れば独力で何とかしたいところですよね、と思い直す。


 そう思っていた矢先だった。


 勤め先の建設会社の就職試験を彼女が受け、最終候補者の中の1人として残っていると知ったのは。
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