好みの彼に弱みを握られていますっ!
 周りを見回すと、私のアパートから運び込まれた荷物はあらかた整理整頓されて、あるべき場所に仕舞われた後。
 およそ今日引っ越してきたばかりの人間がいる空間には見えないくらい整っているの。

 でも、よく目を凝らせば、そこここに違和感があるのもまた事実で。


 だってほらあそこ。

 宗親(むねちか)さんチョイスのスタイリッシュな食器たちが並ぶ食器棚の中、場違いな空気をビンビンに振りまきつつも収まった、私愛用のパステル調で描かれたナマケモノ柄のマグカップが!

 その絵面はとっても間抜けで異質。まるでこの高級タワーマンションにおける私そのものみたいに見えた。


(ねぇ、宗親さんっ。あれ、本当にあそこに入れたんで、いいんですかっ? 私の部屋の片隅に置き直した方がよくないですかっ?)

(使い慣れたマグで飲み物を飲みたいからって、捨てるものリストに加えなかったのは確かに私ですけれど……もっとこう、奥の方にコソッと隠しておいた方がいいと思うんですけどねっ……!?)


 おろおろしながらアレやらコレやら思いつくままに〝心の中で〟言い募ってみたけれど、当然口に出しているわけじゃないから、宗親さんに届くはずはない。
< 226 / 571 >

この作品をシェア

pagetop