好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

「金曜日、引っ越し業者が春凪(はな)のアパートに来るよう手配しました。キミは仕事をお休みして対応するように」

 シャワーから出ていらっしゃるや否や、有給も何もない私にそんなことを言ってくる宗親(むねちか)さんは、鬼だと思って。

 そもそもいつそんな手はずを整えていらしたのですか、宗親さん!
 私がお風呂に入っている間ですか!?

 昨今、大抵のことは何だってスマホひとつあれば、ネットからアレコレ出来てしまうから、きっとそうに違いないの。


「で、でもっ」

 社会人になりたてほやほやの身で、私事(わたくしごと)のために仕事をサボるとかどうなの?という気持ちを込めて反論を試みる。

「でももしかしもありません。時間がないのだと言うことを自覚して下さい。そもそも社会人としてどうのこうの考えているんだとしたら、最初から受けた着信への折り返しをおろそかにしなければ良かっただけのことです。そう思いませんか?」

 冷ややかな視線を向けられて、私はグッと言葉に詰まった。
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