好みの彼に弱みを握られていますっ!
 何、宗親(むねちか)さん、エスパーか何かですか?
 心を読まれたみたいな上に、おっしゃる通り過ぎて、私、ぐうの()も出ません。

 とはいえ、私が不動産屋や実家へ折り返し出来なかった責任の一端は、死ぬほど私をこき使って疲れさせた宗親さんにもある気がするのです。

 そんなことを思ったけれど、言ったら最後、何億倍にも膨らんだお小言が返ってきそうで、口が裂けても言えっこないの。


「あの……私がお休みしても……、その……」

「ひょっとして業務に支障が出ないか?とか気にして下さっていますか?」

 そこで小さく溜め息をつくと、宗親さんが、どこか熱のこもった目で私をじっと見つめていらして。

「正直、僕はキミをとても頼りにしていますし、もちろん出ないはずがありません。恐らくは、僕に思いっきり皺寄せが来るでしょうね。――けど、安心して? 春凪(はな)。……そこはまぁ〝キミの夫になる身として〟、甘んじて受け入れるつもりでいますから」

(あ、あのっ、宗親さんっ。お言葉ですが、そこは〝夫〟というより〝上司として〟の方が正しい選択肢な気がするのですっ)

 その言い方は、私たちは〝間違いなく結婚する〟のだと言い聞かせられているようで、何となく引っかかったけれど、とても口を挟めるような雰囲気じゃなかったの。

 だって、宗親さん。口元は柔らかな笑みをたたえているくせに、視線だけはやたら鋭くて。
 言外に「僕も協力するんですから、春凪(はな)に拒否権はありませんよ?」と含められているのが有り有りとうかがえるんだもん。
 私はしんなりと萎れながら、「分かりました。ご迷惑をお掛けしてすみません」とうなずいた。
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