好みの彼に弱みを握られていますっ!
 実際にはきっと、宗親(むねちか)さんとバーで初めて出会った瞬間から、私は彼に心を奪われていたんだと思う。

 見た目も声も好みのド・ストライク。

 だけど、腹黒で自分勝手で強引でわがままな、近付き難い上司。

 私とは住む世界が違う人だから、いくら好みのタイプでも好きになったりしない。好きになったりしちゃいけない。

 遠くから、姿を眺めるだけで十分の雲上人。

 そう自分に言い聞かせていた時点で、私の負けはとっくに決まっていたんだよね。


 そんな好みの相手から――例え利害の上とは言え、「妻に」と請われて突っぱね続けることができるほど、チョロ子の私は強くなかっただけ。


 宗親さんの私へのこだわりと、私の彼への執着は種類が違うもので、交わることはないというのはもちろん百も承知。

 だって、宗親さんのそれは都合の良い妻役を逃すまいとする事務的な固執で、私のこれは紛れもなく恋慕なんだもの。

 重なりっこない。
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