好みの彼に弱みを握られていますっ!
「つかれた……。なんか食べたい……」

 やって来た箱内に誰もいなかったのをいいことに、溜め息混じりにそう吐き出して、壁に背中を預ける。

 と、ドアが閉まり切る直前にヌッ!と隙間に大きな手が差し入れられて。

「きゅぁっ」

 完全にだらけモードで無防備になっていたところへの思わぬ奇襲に、カエルがつぶれたみたいな、はたまたRPGなどの回復魔法みたいな、恥ずかしい悲鳴が漏れた。


「開ボタンくらい押してくれてもいいのに……」

 心臓バクバクでそんなゆとりなんてなかったけれど、言われてみればその通り。

 挟まれた手に、安全装置が働いて再度口を開けた扉から箱内(なか)に入ってくるなり、手の主から非難がましい声で溜め息をつかれて、ほんの少し申し訳ない気持ちになる。

「す、すみません」

 謝りはしたものの、もしも私、操作パネルに手を伸ばしていたら、間違いなく「閉」の方を連打しまくっていた自信があります!

 だって手が差し込まれた瞬間、何かホラーチックで本ッ当にっ! 怖かったんですもの!

 なんて思ったけれど、口に出すわけにはいかない。

 何故なら乗り込んできた相手が、一応直属の上司だったから。
 歯向かうなんて、滅相もございません。
< 28 / 571 >

この作品をシェア

pagetop