好みの彼に弱みを握られていますっ!
***


 どうやら僕もあのまま寝落ちしてしまったみたいだ。

 春凪(はな)の頭が一晩中乗っていた右腕の感覚が余りないのは、ずっと春凪を離さずに眠っていられた証拠にも思えて。

 ――あ、これって結構誇らしい痺れかも?

 眠ったふりをしていたくせに、思わず口の端に笑みを刻んだら、春凪が「宗親(むねちか)さん……あの、ひょっとして……起きて……いらっしゃいま、すか?」と、恐る恐る囁くような声で聞いてきた。

 ――狸寝入りもここまでですね。

 観念して目を開けたら、思ったより春凪の顔が間近にあって、僕は少し驚いてしまう。

 僕に抱き締められたまま、何とか距離を取ろうと頑張っている風だったから、てっきりもう少し離れていると思っていたのに。

「おはようございます」

 真っ赤になってソワソワする春凪をさらにグイッと引き寄せて挨拶したら「おっ、はよ、ござ、まっ」としどろもどろなのが本当に可愛い。

 ――そんな反応されたら、もっともっといじめてみたくなるんですけど。


「よく眠れましたか?」

 彼女がしっかり眠れていたことは承知の上で問い掛けたのに、「ねっ、眠れたわけっ……」ないです……とでも言いたげな口ぶりをするから、僕は春凪を困らせたくなった。
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