好みの彼に弱みを握られていますっ!
 確かに最初のうちこそ戸惑いまくりで、何が何だか分からないうちに書かされてしまった、人生をひっくり返すようなその書類を、取り戻したいという気持ちがなかったわけじゃない。

 でも、今は……宗親(むねちか)さんのことを大好きになってしまった今は……そんな気持ちはさらさらないんだけどな?
 織田家(おりたけ)との家柄の差をまざまざと感じさせられたりするたび、確かに尻尾を巻いて逃げ出したくなることはあるけれど、それとこれとは別の話だもん。

 ただ、宗親さんの方は、実際にそうなるのを防ぎたくて婚姻届を人質に、私を繋ぎ止めようとしておられたのは確かな気がします。

 私が彼のことを本気で好きになっていることを、宗親さんご自身はご存知ないのだから無理ないよね。

 そこまで考えて、私は思わず口の端に笑みを浮かべた。

 だってだって……そう考えたら、理由はどうあれ宗親さんに【必要とされている】のかな?って思えて、私、めちゃくちゃ嬉しかったんだもんっ!

 なのに――。
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