好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

春凪(はな)のマリッジブルー対策で、先手を打たせていただきますね」
 と、とんでもないことを言い出した宗親(むねちか)さんに、私はさすがに驚いてしまう。

「マリッジ……? えっ?」

 宗親さんの言葉の意味がよく分からなくてきょとんとしたら、「結婚式の準備などを始めると、色々煩雑(はんざつ)になって、結婚自体をやめたくなるなんて話、よく聞きませんか?」とか。

 確かにお聞きしますけど……。

「わっ、私たちは【利害の一致で結婚する】わけですし……そんなことでサヨナラにはならないんじゃないでしょうか?」

 言ったら、宗親さんが一瞬だけ私を睨んでいらした気がした。
 もしかして、利害が一致しているとか烏滸(おこ)がましいことを言ったから、怒らせてしまいましたか?
 宗親さんにはデメリットの方が大きかったですか?
 それはそうですよね、すみません。

 でも……。

〝私、実は宗親さんのことが大好きなので、偽装とは言え貴方と夫婦になれるの、凄く、すっごぉーく、嬉しいんですっ! てへ♥〟

 だなんて本音を言われた方がお困りになられるでしょう?

 仕方なく、宗親さんの顔色を(うかが)うように、
「私、そんな短慮を起こしても住むところも家財道具も何にもありませんし……」
 と、もっともらしいことをゴニョリと付け加えてみたり。

「それでも、です。――うちの家は案外面倒ですし、春凪(はな)の楽観的な言葉なんてあてにならないと僕は思っています」

 と一蹴(いっしゅう)されてしまった。
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