好みの彼に弱みを握られていますっ!
 そこまで言ったらやっと。
 宗親(むねちか)さんがゆっくりとこちらを振り返ってくれた。

 そうして私をじっと見つめてしばらく思案した後、

「……春凪(はな)、もしかして婚姻届、僕と一緒に出しに行きたかったりしましたか?」

 そう仰って。

 宗親さんが、言えなかった私の気持ちに気付いていらしたことにドキッとして。

 私は慌てて視線を足元に落とした。

 宗親さんほどの人だもん。
 あそこまで言われて気付かないわけないよね。

 自分から仕掛けたくせに、ハッキリそうじゃないかと問われた途端怖気(おじけ)付くなんて、私も大概意気地なしだ。


春凪(はな)?」

 だけど宗親さんはそんな私の逃げを許してくれるような人じゃない。

 あごに手を添えられて顔を上向かせられた私は、宗親さんにすぐ近くから瞳を覗き込まれてしまう。

 視線だけふいっと逸らしてそんな彼の追及から逃げてしまおうかとも思ったけれど、今ここでそんなことをしたら「そうです」って認めているのと同じになっちゃうからダメ!
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