好みの彼に弱みを握られていますっ!
 ――ねぇ、宗親(むねちか)さん。大丈夫って……なに?

 出してしまった婚姻届を再度出しに行くことは、一度離婚でもしない限り無理だけれど、もしかしてそうしようとか思われてます?

 もしそうだとしたら、宗親さんが私の気持ちを汲んでくださって、こうして甘やかしてくださるだけで、もうそこは諦められるかなって思えますから。

 宗親さんの「大丈夫」とは別の意味かも知れないけど……私、きっと〝大丈夫です〟。
 ただ。

「本当はちょっとだけ……」

 宗親さんの胸に押し当てられてくぐもった声を出したら、宗親さんが私の言葉を聞き逃したくないみたいにそっと腕を緩めて下さった。

 私はそんな宗親さんを見上げて、

「……何て女心の汲めない酷い人なの?って思って怒ってました」

 本当は〝物凄く悲しかった〟が正解だけど、そこは少しだけ脚色しておいた。

「……すみません」

 いつもなら私が何を言っても上手に丸め込んでくる宗親さんなのに、今日はちゃんと反省してくださったのかな。

 すごく素直にすんなり謝ってくださって。
 それが何だかとっても新鮮で驚かされた。
< 323 / 571 >

この作品をシェア

pagetop