好みの彼に弱みを握られていますっ!
24.桁違い
 あの夜以来、宗親(むねちか)さんは大人しく私からの許しが出るのを待ってくれていて――。
 私は私で、本当は別に宗親さんに触れられることがイヤなわけじゃないから……どうやって「もういいですよ」と彼に言おうか迷っていた。

 タイミングが測れないままに時間ばかりが過ぎていくことに内心ものすごく焦っていて。
 素直になれない自分のことを、こんなにもどかしく思ったことはない。


***


 そんな矢先の、金曜の朝のことだった。

春凪(はな)に贈る〝婚約〟指輪なんですけどね、このぐらいのものを考えています」

 宗親さんがそう言って指輪のカタログを持ち出していらしたのは。

 宗親さんが「どうぞ」と手渡してくださった資料に何気なく視線を落とした私は、思わず「ひっ」って小さく声を漏らしていた。

 だって! どれも〝七桁〟超えの料金設定だったんだもん!


 正直五桁だって良いと思っていたくらいだし、よもや六桁を越えたとしても、前半でいいし、それは消費税込みで六桁になっちゃいました〜な感じで、を想定していた私には、税抜き表示と思しき金額の、桁からしてひとつずれていたのが大問題で。


「ぎっ、偽装結婚にこんな高いの、もったいないですっ! それに私たち、もう入籍したんですから婚約指輪は要らないです。普段使い出来るような結婚指輪だけで十分です!」

 慌ててまくし立てる私に、

「それでは僕の気がおさまりません。春凪(はな)に、僕と〝結婚したと言う実感〟を得てもらうためにも〝婚約〟指輪で周りに『柴田(しばた)さんっ、それどうしたんですか?』とチヤホヤされる所から体験して頂きたいんです」

 あーん、神様ぁー!
 マテを無理()いしすぎて、宗親さんがおかしくなりましたー!

「じっ、実感してますっ! 私、宗親さんの奥さんになれたって実感してますのでっ!」

 私が桁違いの金額を冠した婚約指輪のプレッシャーから逃れたい一心でそう言ったら、宗親さんがニヤリと腹黒な笑みを浮かべた。
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