好みの彼に弱みを握られていますっ!
「あ、足利(あしかが)くんっ」

 今度はちゃんと名前が言えてホッとする。(こ、声はちょっと裏返っちゃったけど)

「ひょっとして驚かしちゃった?」

 聞かれて照れ隠し、慌てて首を横に振ったら、クハッと笑われてしまう。

(ちょっ、待って? もしかしてお見通し?)

 などとテンパる私をよそに。


「――ところで珍しいね。今日は定時なんだ?」

 話を切り替えるようにそう聞かれたけれど、すぐには気持ちがリセット出来ない私は、声を出せないままにコクコクとうなずいた。

 足利くん、他の若い男性たちより比較的話しやすいと思ってはいても、やっぱり人並みに会話が弾むようになるには、もう少し言葉の助走(やりとり)が要るみたい。

(ましてや、こんな精神状態の今は特にっ)
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