好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

(どうしよう。足利(あしかが)くんとはうまくさよなら出来たけど、人、多過ぎだよ)

 いつも残業ばかりしている私は、定時を迎えると共に、こんなに沢山の人が退社しているだなんて思いもしなかった。

 宗親(むねちか)さんとの同棲も婚姻も周りには内緒にしている身としては、こんな風に会社の人がたくさん行き来している現状はちょっぴり厄介なわけで。

 少し考えて、私はさっきダミー電話のために手にしたままだったスマートフォンに、宗親さん宛のメッセージを打ち込むことにした。


『人が多すぎるので私、このまま駐車場は通り過ぎて家に向かおうと思います』

 ――さっき、同期にも捕まってしまいましたしね。

 心の中でそんな付け加えをしつつのメッセージ送信。


 元々宗親さんの所に越してきてからは私、基本的には歩いて通勤しているの。
 通帳残高を三桁に減らすまでして買った愛車は、通勤用としては今、使っていない感じ。

 考えてみたら、今日も徒歩で家まで帰り着いたところで何ら問題はないわけで。

 そう思っていたのだけれど。

『一緒に食事でもと思っているので【Red Roof】でカフェラテでも買って、テラス席で飲みながら待っていてもらえますか? 拾いに行きます』

 そう返信があっては『分かりました』と返すしかない。

 一緒に食事ってことは、まるでデートみたい!って思ったら、自然と顔がほころんでしまった。
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