好みの彼に弱みを握られていますっ!
「回るお寿司も案外バカにならなかったでしょう? 安くても美味しいものはたっくさんあるんですっ!」

 得意げに言ったら「ですね。結構美味しくて驚きました」って微笑んで、「じゃあ、僕はとりあえずお風呂のスイッチを入れてきますね」って何の脈絡もなく話を変えちゃうの。

 私はその言葉に、ピクッと身体が跳ねてしまった。

 お風呂っ。
 そうだ――。

 今日はご飯、めちゃくちゃ早く済んでしまった。

 作る時間要らなかったし、家で作ってないから片付けも不要。
 何より、今日はふたりして残業を回避してるからっ。


「あ、あのっ」

 ソワソワしながら宗親(むねちか)さんを呼び止めたら「春凪(はな)は恥ずかしがり屋さんですし、お風呂〝が先〟の方がいいですよね?」って……。

 やっぱりその「先」の比較対象は、朝の続きのことです、よ、ね?

 私はコクコクとうなずいて。
 それでもこう言わずにはいられなかった。

「宗親さん、先に入ってください」

 って。

 それは、前に宗親さんとの初夜を拒んだ日のリベンジだったから。

 あの日、宗親さんは珍しく私より先にお風呂に入って……それから――。
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