好みの彼に弱みを握られていますっ!
宗親(むねちか)さん、それでも私は貴方のことが大好きです……)

 言えない言葉に押しつぶされそうになりながら、涙目で宗親さんを見上げたら、言いたいことの半分も言葉をつむげない役立たずの唇を、彼が愛おしげに指の腹でそっと撫でた。


(宗親さんのバカぁ! そんな風に優しく触れられたら、もしかして愛されてる?って勘違い【したく】なるじゃないっ!)



 言えないって諦めたばかりなのに。

「――それは?」

 言い掛けた言葉の先をやんわりと促されて、宗親さんの優しさにほだされまくりの私は、つい本音を言いそうになってしまう。

「……だって……宗親さんがっ」

 そこまで言って、宗親さんに「僕?」とつぶやかれたのを聞いたら、言えない!って気持ちが優勢になって、私、慌てて唇を噛み締めて言葉を呑み込んだ。


「ダメですよ、春凪(はな)。そんなに強く噛んだら、唇が切れてしまう」

 途端宗親さんにそういさめられて、唇に触れていた指を口中に差し込まれる。

 そうされてもなお、私は唇を引き結んだ力を緩めることが出来なくて――。

 そこまでくると、さすがにおかしいと思われたんだろうな。

 宗親さんが小さく吐息を落としてから、

「……ねぇ春凪。それはそんなに言いにくいことなの? ――えっと、よく分からないんだけど……キミが僕を信じられない理由が〝僕にあるから〟って思ったんで合ってる?」

 言葉とともにじっと目を見詰められて、私は苦しくて切なくて泣きそうになった。
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