好みの彼に弱みを握られていますっ!
 だって……そうだけどそうじゃなかったから。

 私が勝手に宗親(むねちか)さんを好きになって、宗親さんからも愛されたいって求めて悶々としてるだけ。

 宗親さんはちっとも悪くない。

(これじゃあまるで、宗親さんに責任転嫁してゴネてるだけの駄々っ子だよ)

 こんな面倒くさい契約結婚の相手、私だったら捨てたくなる!


「ヤダ……。宗親さん、お願っ、捨てない、で……」

 無意識にそんなことをつぶやいて、私は宗親さんから伸ばされた腕に必死にしがみついた。

 宗親さんは一瞬驚いたような顔をなさってから、
春凪(はな)。どうしたの? 僕は絶対にキミのことを捨てたりなんてしませんから。大丈夫だから……。ね? 落ち着いて?」

 私をそっとベッドから抱き起こすと、ふわりと優しく腕の中に閉じ込めて下さった。

 しばらくそのまま宗親さんの腕の中で彼の温もりに包まれて気持ちを落ち着けた私は、抱きしめられたまま小さく身動(みじろ)ぐと、彼からそっと距離をあけて自らのパジャマのボタンに手を掛ける。

「――春凪?」

 そんな私を、宗親さんが戸惑いに揺れる瞳で見詰めてきて。

「……今日は私のこと、抱いて、……くださるんでしょう?」

 私は薄らと涙に潤んだ視界のまま、宗親さんのお顔を見上げてそう問いかけた。
< 356 / 571 >

この作品をシェア

pagetop