好みの彼に弱みを握られていますっ!
春凪(はな)……」

 春凪を力で押さえつけているという負い目のせいで言えない気持ちを、たった二文字しかない彼女の名前に託すように熱を込めて呼べば、まるでそれに応えるみたいに、春凪が「宗親(むねちか)さん……」と僕の名前を呼んでくれた。

 熱に浮かされたような春凪の目を見つめながら、今この時だけでも構わないから、春凪の中を占める存在が、僕だけであって欲しいと熱望してしまう。


 僕に見せることを強硬なまでに拒んだその身体を、僕以外の人間だって誰一人知りはしないんだと思えたならどんなにか気持ちが救われるし、こんなに焦る必要だってない。

 だけど僕は知っているから。

 春凪の、柔らかくて(すべ)らかなこの肌を、僕以外の男が先に触れてしまっていると言うことを。

 僕だけのキミであって欲しいのに、それはもう永遠に叶わない夢なんだろうか。

「ねぇ春凪。キミの元カレは……春凪が感じた姿を見たことがないんでしたよね?」

 春凪の、かたくなに引っ込んだまま顔を出そうとしない胸の先端を、そのたわわな膨らみごと手のひらでやんわりと押しつぶす。
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