好みの彼に弱みを握られていますっ!
「でも……」

 つぶやいたきり手を出すのを躊躇(ためら)う私に、

「1週間、僕の()()()()にしっかりついてきたご褒美です。今まで同じように仕事を頼んでみて、逃げ出さなかったアシスタントは老若男女(ろうにゃくなんにょ)問わずキミが初めてです」

 にっこり微笑まれて、手を離されないままにカードを手にした方の手で頭を撫でられる。

「特にキミには()()()()()()()期待していましたので、ついいつも以上にスパルタになりました」

 伸ばされた作業服の袖口(そでぐち)からふわりと香ったマリン系の芳香にドキッとして、私、織田(おりた)課長からの不穏な言葉を聞き逃してしまった。

 仕事中にも、ふとした時にこの匂いが漂ってきてはソワソワさせられていたけれど、今日は手を握られていることもあって一層その思いが強まる。

 間近に迫る織田(おりた)課長の顔、薄暗がりであまり見えなくてよかった。
 これが明るいところだったりしたら、私、舞い上がり過ぎて気絶していたかもしれないもの。


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