好みの彼に弱みを握られていますっ!
「……ぃ、です。私はもう、……んぶ、……さんの、……の、なので、……むしろ……んりょ……いで……貴方の、うように、う、……くして……たいです」

 ややして、春凪(はな)が僕から顔を背けると蚊の鳴くようなか細い声でそう言って。
 僕はその声が聞き取れなくて、春凪の頬にそっと触れてこちらを向くように仕向ける。

「ごめんね、春凪。よく聞こえなかったからもう一度だけ。今度はちゃんと僕の目を見て言ってくれないかな?」

 わざと春凪の耳元に唇を寄せて。
 低くささやくようにそうお強請りをしたら、春凪が泣きそうな顔をして僕を睨みつけてきた。
 その表情でさえも可愛すぎて困る……とか思ってるの、恥ずかしいからどうか気付かないで?

 そんな僕の下、春凪が胸元を隠しながら、一生懸命僕の手から逃れようとしてくるから。

「僕の方を見て言ってくれるまで逃がすつもりはありませんよ?」

 照れ隠し、意地悪く口の端に微かに笑みを浮かべたら、春凪が「腹黒……」ってつぶやいて。

 僕は「その通りです」って、今度こそニッコリ微笑んで見せることが出来た。
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