好みの彼に弱みを握られていますっ!
「11時までなら頼めるみたいですし、ちょうど明日はお休みです。せっかくですし、()()を使って食べに行ってみられたらいかがですか?」

 その声とともに、私は掴まれたままだった手首を裏返されて、例のギフトカードを握らされた。


「あ、あのっ」

 急いでそれをお返ししようとしたら、「僕は一度さしあげたものを取り戻す趣味はありませんので」と突っぱねられて。

「でもっ!」

 困ります、とゴニョゴニョなりながら告げたら、

「さっき言ったでしょう? 僕はそれで先程の無礼を水に流してもらいたいんです。逆に受け取ってもらえないと、こちらが困ります」

 そこで初めて手を(ほど)かれて、まるで降参しています、と言う風に両手を小さく挙げられてしまった。

 何、その計算し尽くした仕草。

 かっこいい人が可愛いことをするとかズルくないですか?


「わ、分かりました。じゃあ、お言葉に甘えて」

 その所作に不覚にもキュンとさせられて、私はギフトカードを受け取ってしまっていた。


 額面も確認しないままに。
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