好みの彼に弱みを握られていますっ!
「でっ、でしたらっ……。こっ、この中でもなるべくお安いのでっ」

 さすがに七桁は有り得ないし、せめて一桁下げて欲しい。そうお願いしたのだけれど――。


 宗親(むねちか)さんとウダウダ揉めているうちに、〝何故か〟葉月さんが訪問していらして、彼女が懇意にしておられる宝石店を紹介されてしまった。

 宗親さんめ!
 絶対お風呂の時とか……私が目を離していたうちに葉月さんに連絡を取ったに違いないの!

 さすがにそうなると引っ込みがつかなくなって。

 宗親さんは【しらじらしくも】「まぁ後手に回り過ぎましたし、せっかちな母からすると当然の流れでしょうね」と、困った【ふり】をしつつも、どこか【したり顔】で続けるの。

「断ると後々(あとあと)が面倒なので、ここで購入しましょう」

 そんな、退路を断たれる形での、ゆるっとした流されモード。

 そもそもお義母(かあ)さま、入籍も済ませた後の嫁に婚約指輪は必要ないとかおっしゃらないの!?とそこも引っかかってしまう。

 葉月さんに直接聞くのは何だかはばかられて、彼女が帰られた後で宗親(むねちか)さんにそう言ったら、「あの人も形から入る人ですから」って納得いくようないかないような微妙な答えを返された。

 ――形から、には順番は含まれないの?

 などと思っている私に、宗親さんが追い討ちをかけてくる。

春凪(はな)は僕と話していた時、シルバーリングでも何でもいいみたいに言ってましたし、ここのブランドでないとダメみたいなこだわりはないんですよね?」

 じっと目を見つめられて、グッと言葉に詰まった私に、「だったら、どこの指輪にしてもきっと大差ないですし、母お勧めの所でも大丈夫だと思うんだけどな?」と、微笑まれてしまった。

 くぅー。私のバカっ! 要らないこと言ったりするから墓穴掘って言い返せなくなっちゃったじゃないっ!
< 396 / 571 >

この作品をシェア

pagetop