好みの彼に弱みを握られていますっ!
 足利くんが名前を呼んだのを聞いて「あ」と思ったんだから厳密には思い出したわけじゃないけど、この人は確か――。

「経理課の北条(ほうじょう)湊人(みなと)だ。たった四人こっきりの同期の名前ぐらい覚えとけ、管工事課の柴田春凪(はな)

 そうそう。
 このめちゃくちゃ偉そうな物言い。
 眼鏡の奥から鋭い眼光で品定めでもするみたいに私を()め付けてくるのも、いかにも値踏みしてるみたいで〝経理課〟っぽい。(あ、経理のかた、すみません! あくまでも北条くんは、の話です)

 入社式のときにも一番近付きがたいオーラが出ていて、関わり合いになるのはよそうと思ったのを思い出す。

 もう一人いた子犬みたいに人懐っこい印象の男性は、確か営業にまわされたはず。名前はやっぱり覚えていないんだけどっ。

 
「だぁ~かぁ~らぁ~。そんなに親しくなってもねぇのにいきなり呼び捨ては良くないぞ、北条」

 足利くんがすぐにフォローを入れてくれたけれど「だったらお前も俺のことは北条さんと呼べ」と即座に切り返すとか、言われた張本人は一向に意に介した様子はない。
< 400 / 571 >

この作品をシェア

pagetop