好みの彼に弱みを握られていますっ!
 うー。宗親(むねちか)さんの意地悪ぅー!!
 確かにさっきはそうでしたけど、アレはあんなことやこんなことの直後だったからであって、今は大分回復してるはずですっ!

 そう言いたかったのに、不意に宗親さんが身に纏うマリン系のコロンの香りがフワッと鼻腔をくすぐって。途端、そのままギュッと彼にしがみついていたいような気持ちになってしまった。

 宗親さんはもう作業服に着替えていらっしゃるし、もうじき家を出て、私、一人ぼっちにされちゃうんだ。

 そう思ったら離れたくないって思ってしまって。宗親さんに縋りついた手に自然力がこもる。

春凪(はな)、その格好であんまり強くしがみつかれると、ベッドに戻りたくなってしまうんだけどな?」

 今日はお休みだからとラフな格好に着替えていた私は、ノーブラなのをすっかり忘れて宗親さんの首筋にしがみついていて。

 宗親さんに苦笑混じりにそんな【牽制】をされてしまう。

「ご、ごめ、なさっ」

 慌てて腕の力を緩めた私に、宗親さんがポツンと「春凪(はな)、いい匂いがしますね」って、リビングの扉を抜けながらつぶやいていらした。

 リビングに入った途端、部屋中が美味しそうな匂いにあふれていたから、私も【彼に同調する】ように「そうですね。すっごく(こう)ばしい香りがします! お腹空きました!」って目をキラキラさせて。
 何故か宗親さんに盛大な溜め息をつかれてしまう。

 むぅー。何なのその反応! もしかして「そんな匂いしませんよ?」って否定するのが正解だったの?

 共感されて嫌な顔するとか、本当宗親さんってば意味わかんないよ!
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