好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

「えっ、ちょっと宗親(むねちか)さん、それ、本気でおっしゃられてます?」

 宗親さんには、今使っていらっしゃるカップの方が絶対に似合っていると思うのに。

 私が使っているのとお揃いのナマケモノマグが欲しいと言い出した宗親さんに、私は最初揶揄(からか)われているに違いないと警戒したの。

 だけど、宗親さんは至極真面目な顔をして、「その方が全く別々のものを使っているより【夫婦らしく見えて】いいかなって思ったんです。春凪(はな)もそう思いませんか?」と聞いていらして。

 「夫婦茶碗(めおとぢゃわん)みたいなものです」と言われてしまったら、〝偽装結婚だからこそ〟の、宗親さんお得意の「形から入る」を体現するために必要のかな?と思い直した。


 そういうことなら、と宗親さんを送り出した後、少し身体を休めてからスマートフォン片手に色々探してみたのだけれど。


「う〜。さすがに同じものはないですよぉー、宗親さぁ〜ん」

 長年愛用しているだけあって、もうどこを探しても私のと同じものは見つけられなかった。

 それでも宗親さんの求めに応じてインターネット上、「ナマケモノ」「マグカップ」の検索ワードを入れてヒットしたいくつかの中から「これなら」と思えたものを数種類、ピックアップしてお気に入り商品に登録しておいた。

(宗親さんが帰ってきたら選んでもらおう)

 そう思って。
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