好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

 ほたるは結局傘まで貸してくれて、私は雨の中、今度は濡れずに同期のみんなとの待ち合わせ場所として指定した【双葉台のバス停】まで歩くことが出来た。


「もう外、暗いけど一人で歩いて大丈夫なの? 危なくない?」

 家を出る間際、玄関先でほたるに眉根を寄せられて、今朝宗親(むねちか)さんに言われた「キミが危なっかしく夜道を歩いて帰ることや〜」というセリフを思い出して何だか胸の奥がキュッと苦しくなって。


春凪(はな)?」

 私が急に黙り込んで表情を曇らせたからだろう。
 ほたるが心配そうに顔を覗き込んできたから、私は慌てて「あっ、何でもないっ。大丈夫!」と取り繕った。

「【恋人】と何があったのかは分かんないけど……なるべく早く話し合いしなきゃダメよ? とりあえず今夜はうちに泊めてあげるからここに戻っておいで?」

 言われて、アパートのスペアキーを手渡された私は、「いいの?」と恐る恐るほたるを見つめて。

「アタシが泊めなかったら春凪(はな)、どこに行くか分かんなくて危なっかしいんだもん」

 またしても宗親(むねちか)さんに心配されたようなことを言われてしまう。


 私は色々一杯一杯で、ほたるが【同居人の上司】としか話していない宗親(むねちか)さんのことを、わざと【恋人】と呼んだことに気付けないままアパートを後にした。

 ほたるが閉ざされたドアに向かって「分かりやすいぞ、春凪(はな)。帰ってきたらたくさん話、聞かせてもらうんだからね」とつぶやいたことも知らないままに――。
< 438 / 571 >

この作品をシェア

pagetop