好みの彼に弱みを握られていますっ!
 要するに、部屋で歌ったり楽器を奏でたりしても大丈夫なように、音大生向けの物件に住んでいるんだとか。

「足利さ〜、こう見えて結構真剣に取り組んでるんだよ〜」

 サラリと武田くんがそんなことを言って、私は思わず足利くんをしげしげと見つめてしまった。

柴田(しばた)春凪(はな)。今の足利をいくら見つめてもステージの上のコイツとは別人だからな?」

 北条くんに苦笑混じりにそう言われて、私は小さく吐息を落とす。

「うん、全然イメージわかない……」

 歌う時の足利くんは髪型とか色々変えたりメイクをしたりするのかな。
 どんなに思い浮かべようとしても、ジャージの方が似合いそうな足利くんを前にしたら、全然ぴんとこなかった。


(あ、でも……今の口ぶりからすると、北条くんは聴きに行ったことあるのかな? 正直そっちの方もイメージわかないんだけどっ!)

 ヴィジュアル系バンドの観客席にいる、仏頂面眼鏡のスーツ男性。

 うー。違和感しかない……よ?

 足利くんがいつか言った通り、北条くんは口こそ毒舌気味だけど、(友達思いの)優しい男性なのかも知れない。


***


「カンパーイ」

 足利(あしかが)くんの部屋は1LDKの角部屋で、八畳の広い部屋の隣に二畳くらいの小さな防音室がくっついた間取りになっていた。
 防音室にはキーボードやスピーカーなどの機材が所狭しと置かれていて、とてもみんなでワイワイやれる気配ではなくて。

「んなわけで、防音室付き物件っちゅっても、こっちの部屋にいたんじゃ意味ないんだけどね」

 ククッと笑う足利くんに、みんなが「確かに」とうなずいて。

 あんまりどんちゃん騒ぎをするのは良くないねってそれ相応な声音で静かに飲むことにした。
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