好みの彼に弱みを握られていますっ!
***

春凪(はな)、そう言えばその服もご友人に借りられたのですか?」

 運転しながらだから、宗親(むねちか)さんのお顔は基本前に向けられたまま。

「そんな服、キミは持っていなかったですよね?」

 ちょっ、宗親さんっ! その発言、何気にストーカーチックですよ⁉︎

 私、自慢じゃないですが、宗親さんの手持ちのお洋服なんて把握していませんもの!

 そりゃあ圧倒的な枚数差のせいもあるかも知れませんが。


 時折チラリと流される宗親さんからの視線に、私は何だかソワソワと落ち着かなくて。
 一人、心の中で下らないツッコミを入れて心の均衡を保とうと試みる。


「わ、(わらし)が着てたにょ、ずぶ(にゅ)れになっちゃったん()……」

 居た堪れなさにうつむきながらそう言ったら、宗親さんが吐息を落とす気配がして。

「そんなに濡れただなんて……身体、冷えませんでしたか?」

 初夏とはいえ、夜のこと。

 雨の中、濡れたままホロホロと夜の街を彷徨(さまよ)った私は、そのとき結構寒かったのを思い出す。

 だけど――。

「ら、大丈夫(らいじょぉぶ)れすよ。しゅぐ、ほたるにお洋服借りに行きましたもにょ」

 ふわふわと答えて、「(わらし)、結構優秀なのれ」と胸を張ったら「優秀な人間はそもそも雨に濡れるようなヘマはしません」とにべもないお言葉。
< 465 / 571 >

この作品をシェア

pagetop